創業半世紀のいま、
社内からイノベーションを巻き起こす
次世代組織改革
「ヤングエグゼクティブプログラム」

ウシオ電機株式会社 人材戦略部

流郷 紀子様

ウシオグループは1964年、産業用光源からスタートし、今日も数多くの分野で世界初や世界トップシェア製品を生み出すリーディングカンパニー。長い歴史と最先端の技術を併せ持つ同社で2016年からスタートした「ヤングエグゼクティブプログラム」では、20代後半から30代を中心とした約20名の参加者が、それぞれ1年半の学びを終えて職場へと輩出されてきた。学習の機会にとどまらず、組織変革の実践者としていまでも職場で小さな渦を創り続けている。
しかし、現在3期目となるプロジェクトも、これまで決して順風満帆なわけではなかった。その立役者である、人材戦略部の流郷(りゅうごう)様にお話を聞いた。

(インタビュアー:楠麻衣香 担当プロデューサー:畑俊彰)

着任直後、受講者からの「助けてください」に全身が熱くなった

同社人材戦略部に着任した3年前の16年9月、すでに第2期のヤングエグゼクティブプログラム(以下ヤンエグ)は中盤に差し掛かり、前任者から引き継ぐ形で現場に携わったという流郷氏。「あまり大きな声では言えないんですけどね」と切り出した言葉は、受講生からの衝撃の一言だった。

ヤングエグゼクティブプログラムとは

①ウシオグループの未来をリードする経営人材候補を育成する/②ヤンエグ活動を起点とし、人や事業をつなぐ変革の火種となる の2つを目的として2016年から同社内で始まった次世代リーダー育成プログラム。
現在3期目となるプログラムには自薦、事業部長推薦、卒業生推薦から選ばれた28歳から39歳までの社員19名が参加。1年半の間、学習と実践を通じて4つの目標要件の体得を目指している。 プログラムは大きく4つのセッションが複数走っている。
①グループ内や社外の経営者との車座を通してリーダーの軸に触れるLeaders’ Session、②ビジネスリテラシーを学ぶBusiness Session、③オンライン・オフラインで英語力を鍛えるGlobal Session、④学んだことを職場につなげるアクションラーニングを中心としたUshio’s Session
インヴィニオでは④のアクションラーニングの設計から運営のご支援をしている。

流郷:着任してすぐ、初めてヤンエグにオブザーブしときに当時2期生の受講生から取り囲まれたんです。「このプログラムはこのままではだめだと思う。流郷さん助けてください」って。2期はそれまでどちらかというと学習中心のカリキュラムで、次世代リーダーを目指すメンバーとしてこのままで良いのだろうか、という受講生当事者の課題認識でした。

人事に来られたばかりの流郷さんに、ですか?

流郷:新しく来たこの人なら何とかしてくれるんじゃないかと思ったのかもしれません。受講生たちの姿を見てほっとけない、なんとかしなければと思いました。そこからは受講生たちと一緒にヤンエグの立て直しをしていきました。

具体的にはどのように動かれたんですか?

流郷:実のところ、上司からもコストを抑えながらプログラムを見直す指示があったのです。一任されていたものの社外のリソースだけに頼ろうにも頼れず、私自身入社したばかりであまり会社のことを分かっていない。そのような中、受講生から「これを活用してください」とリストを渡されました。受講生が何を学びたいか、そして社内で誰がその講座を担当してくれそうかという一覧でした。「自分たちの想いは伝えたので、後は流郷さんに一任します」と。社内はもちろん社外で実践している人を探して、講座を受け持ってもらえるよう調整に走りました。

「部長になりたい。で、部長になって何したいの?」

現在3期生が走っていますね。初めてゼロから企画・運営を回されていますが、どのようなところにこだわっていらっしゃいますか

流郷:ヤンエグになぜ参加したのか、参加してどうなりたいのかを聴くようにしています。課長や部長になりたいといった話がでてくることがありますが、それだけではだめ。「部長になって何をしたいの?」と聞くとなかなか出てきません。でもそれでは本当のリーダーではないんです。自分が何を成し遂げたいのか、それを持っていないと。これからの時代は変化がすごく激しい環境の中、自分の軸を持っていないと周囲にふりまわされるだけになってしまいます。ヤンエグもそこを意識してプログラムをつくっています。自分は何者なのかを問うていくこともしますし、そのために社内外の経営陣がどういうリーダー観を持ち、実践しているかに触れる機会もつくっています。最後は自分のリーダーシップ宣言として英語で他者にわかりやすく伝えていくことも課しています。

自分がウシオグループのリーダーとして何をしたいのか言語化していくということですね

流郷:そうですね。そうはいっても一定のビジネスリテラシーが必要です。それも学ぶだけではなく実際に使うこと。なので、自分の軸を踏まえて、模擬的かもしれないけど、自分たちなりに実践と提案するところまでは持っていくことを意図して、アクションラーニングを取り入れました。

運営サイドとして、ご自身の関わり方でこだわっていることはありますか

流郷:まず、メンバーを決める段階で候補者とは全員と面談します。次世代リーダー候補としてどれくらいの覚悟があるのかを確認するんです。なぜならこのプログラムは個人の力を引き上げるだけではなく、チームとして全体が高まっていくことに意味があると考えているからです。自分のスキルアップだけに意識が向いている人が集まってしまうと、そこが担保できなくなります。

それから、当たり前のことかもしれませんが、1年半のプログラムは全部アテンドしています。当日を誰かほかの人に任せることはできません。そしてプログラムをつくりこみすぎないこと。プログラムのアウトラインは決まっているけど、受講者にどうしたいか?を途中で聞くこともあります。次回は姫路にある播磨事業所で実施しますが、最初から播磨に行こうと決まっていたわけではなく、受講生から「現場現実は工場にもあるはず」という声が上がってきたので組み込むことにしました。

経営陣を巻き込みつつ、誘導しすぎないことで「角を残す」人材をつくる

流郷さんとしてはヤンエグをどのような場にしていきたいとお考えなのでしょうか

流郷:ヤンエグは「次世代リーダー」を育成するプログラムなので、1年半前よりも成長した!という状態を目指してはいるんですが、それだけじゃもったいない。現業もある中で1ヵ月に1回1年半みんなが集うわけですから、組織に対してどういう貢献ができるようになっているかを見通す必要があります。ヤンエグというチームが、組織として拡がっていく、組織のあちこちで変革の火種になっていく存在になってほしいんです。

その想いは以前からお持ちだったんですか?

流郷:きっかけは2期生との経験から。実は2期生と関わるまでは一人一人個の力を伸ばせばいいと思っていたんです。2期が終わった最後の振り返りで、あるメンバーがみんなに語ったことがとても印象的でした。
「最初このプログラムに手を挙げたのは自分の成長のために、と思っていました。でも1年半経って気付いたことは、ヤンエグメンバーがチームとなって引きあがっていった感じがする、これこそがヤンエグの価値だと思います」
人材開発と組織開発が同時に実現できた感覚を持ちました。

それはグッときますね・・・

流郷:そうなんですよね。個々の成長という意味では、社外の研修に参加させるという選択もあり得ます。でも社内でこれだけ手をかけ、1年半かけてやっていく意味は、そういうところにあるんだなと思わされました。受講生たちがいずれ経営幹部になったときに、きっと生きてくるんじゃないかと思っています。

大事にしたいことは、受講生が一方的に与えられているという場にはしたくないんですよね。そう考えるようになったのも、2期生との関わりがあったからこそ。受講生たちが私のマインドを変えてくれました。以前は人事が事務局としてお膳立てすることは当たり前で、その上に受講生をどう乗せていくか、と考えていました。いまは運営的なことも受講生とその場で一緒につくっています。些細なことかもしれませんが、そういうことが当事者意識の醸成にも繋がると考えています。またアジェンダがすべて決まり切っていないということもあります。

アジェンダが決まり切っていない!究極ですね。ライブ感がある一方で運営サイドとしては不安になることもあるのでは

流郷:まったくないといえばウソですね。それでも受講生たちはそういう場から何かを掴みとっていけるんだ、ということを信じるしかない。受講生の状況をふまえて、アジェンダを組み替えるということも柔軟に行います。最終的に経営陣へ提言をしますが、提言することが主眼になってしまわないように心がけています。提言することが目的になってしまうとヤンエグらしさが失われてしまう。そうなるとヤンエグとしての意味が無い。あんまり誘導しすぎないことが大事だなと。

経営陣や現場の巻き込みというのは想像以上のご苦労もあるでしょうね。難しいと感じる場面はありますか

流郷:やっぱり経営層の巻き込みですよね。巻き込みすぎてしまっても横やりがとんできちゃう。経営層から言われる一言一言って、受講生からすると思った以上に大きいんですよ。いわれすぎると角が取れちゃうし。そういう意味では、事業部長たちがとても良い感じで関わってくださいました。正解のある話ではありませんが、経営や現場の人たちの巻き込みはさぐりさぐり進めているという感じです。

経営も現場も総じてこの取り組みにとっても協力的で、トップ自らこのプログラムの場面で話をしてくださるのはもちろん、若手育成が大事だというメッセージも発信してくれますし、現場もいろいろな場面で協力をしてくれる。お互いにとても協力的なところがあって、良い文化だと思いますね。

次世代リーダー育成というテーマでいくと、ほかの階層別研修との違いはありますか

流郷:そうですね、ある面では同じかもしれません。経験を通して人は育ちます。階層別研修においては、キャリアの節目や役割が変わったときに、必要なマインドセットとスキルセットを整えて日常の経験とつながるように心がけています。

次世代リーダー育成は「少し先の未来」をつくる人たちを育てる、時間軸が違う。いま見えてないものを見出す人たちをつくらないといけません。受講生たちだからこそ見えるものを形につくれるようにするためのプログラムを考える。受講生たちの関係性も見えないものの一つで、このいま目に見えないものをいかに見ようとするか、というのはこだわっている点でもありますね。

「自分が目指したいところに引きあがっていない」メンバー必死の吐露に思わず涙

現場から受講生の変化について聞こえてくる話はありますか

流郷:ものの見方とか発言の質が変わったという声はありますね。2期生のあるメンバーは、ヤンエグが終わった後、あるプロジェクトで新規事業の立ち上げの際に、ミーティングに自分も入らせてほしい、そしてお互いに発言を促すためのワークショップをしませんか、と提案して実行したそうです。驚いたことに、その受講生はプロジェクトメンバーではないんですよ。良くしたいという想いから提案したそうです。ヤンエグではメンバーの間で本音で関わるシーンが多くありましたから、その経験がとても重要だったと確信してくれたのでしょう。
最近ではヤンエグの受講生が社外の人に会いに行くということも起きています。

畑:アクションラーニングの中で目撃録・探検隊というプログラムがあるのですが、社外の経営者や大学教授等に直接アポをとって話を聞きに行ったメンバーがいましたね。

流郷:そうですね、「そんな凄い方のお時間をいただいたの!」と思ってしまうような方にもどんどん会いに行ってましたよ。

ほかに印象的だった場面はありますか

流郷:言葉にしてしまうとその時の情景が伝わらないかもしれませんが・・・3期がスタートして1年たったころ、プログラムが始まるときにある受講生が「一人チェックインしていいですか」と突然言ってきたんです。彼は「1年ヤンエグで活動している中で、自分の想いはあるんだけど、正直業務にも追われているし、家庭もあり、時間の制約がある中、なかなか前に進めていない。当初自分が目指したいところまで全然引きあがっていない。チームのメンバーにも貢献し切れていないんだ」ということを吐露し始めました。
そのあと19人のメンバー一人一人が、いまの想い、9月の最終発表にむけてこうしていきたい、ということを発信する場になったんです。後ろでアテンドしていて、私も感極まって思わず涙してしまいました。あぁ、「安心安全な場」ってこういうことなんだな、彼らはもう大丈夫だな、と思いました。それまでもメンバー間の信頼関係はあったと思うけど、本当の意味でメンバーの信頼関係が築かれた瞬間だったと思います。

聞くだけで涙が出そうです…何が彼をそうさせたんでしょうね?

流郷:なんでしょうね…。彼自身としては、プロジェクトが終わりに近づく中で、最初の面接で話した自分がなりたい状態になかなか到達していないことに焦りや不安を感じていたんだと思います。現業も持ち、家庭も持ち、時間の制約がある中でうまくいかない自分にもどかしさを感じていたんでしょう。 でもあの場でああいうことが起きたというのは…受講生たちの元々持っている素質による思います。まじめで素直、すごく前向きで、何事にもなんとかしたいという想いがあります。私はそんな受講生たちが大好きですね。簡単にあきらめようとしないんですよね。畑さん、どう思います?

畑:なんでしょう…。確かにウシオさんの組織風土、文化、人間性、ベースにあるものがなかったらああいう場はなかったと思いますよね。研修後のアンケートからも、プログラムやいろんな事象を、よどみなくまっすぐ受け止めているという感じがすごく伝わってきますし、斜に構えている人はいませんよね。

でもそれ以上に、人事がどういうスタンスで関わっているかということを受講生は感じているのではないでしょうか。その結果、このプログラムに対しての一人一人への想いの相乗効果が形となって出てきた、たまたまあの場で彼の発言が引き金になったんじゃないかなと思います。

貢献したい気持ちを尊重し、誰にどういう価値を提供したいか、もう一歩踏み込ませる

ジェネサイトのテーマでもある世代について聞かせていただきたいのですが、流郷さんからご覧になって20代・30代の皆さんの特徴や育成のポイントとして感じられることはありますか

流郷:昔もそうかもしれないけど、いまはより正解が見えないしスピードが速いですよね。だからそもそも見えないものがあるんだということを「そういうもんなんだ」という意識でいること、そんな時代だからこそ自分自身をしっかりもっていくことが大事ですよね。
ダイバーシティって言いますけど、多様なだけではカオスになる。あいまいで混とんとしているからこそ、自分軸を見出しつつ、常に変容していくことが必要だと思います。

世代かどうかはわからないけど、若手を見ていて思うのは、ちょっと弱いなーと思うところはありますかね…。会社に貢献したい、組織に貢献したい、新しい価値を生み出したい、という話はよく聞きますが、じゃあ新しい価値って誰に対してどういう価値を提供したいの?と聞くと「ん?」ってなってしまう。その先の社会に何を具体的に貢献できるの?って。そこを言葉にしていかないといけないですよね。

確かに誰かに貢献したいという欲求は世代特徴でもあります。氷河期世代の私からすると、なんとなく昔からその部分はどこかに持っている人が多い感覚もあります。

確かに誰かに貢献したいという欲求は世代特徴でもあります。氷河期世代の私からすると、なんとなく昔からその部分はどこかに持っている人が多い感覚もあります。

変えるべきことを変えながら、変えてはいけないことは変えずに残す

ここまでお聞きしていて、流郷さんご自身についてとても興味がわきました。いつ頃から人事キャリアを歩み始めたんですか

流郷:私はもともと理系の出身で、最初は体外診断薬の開発ラボに5年勤めました。いわゆるリケジョです。寮とラボの往復で終わっていいんだろうか、と思った時に人事に異動したのがきっかけで、経営企画なども含め5年担当しました。その後、企業理念をとても大切にしていると感じたベネッセに人事として入社して11年。ベネッセでは本当に多くの貴重な経験を沢山させていただきました…。そしていまです。

中途で入社したお立場から次世代リーダー育成に携わるというのはいかがですか

流郷:そうですね。私はウシオの外から来たからこそ、いい意味で批判的になることができると思っているので、変えるべきところは変えていこうと。一方で、変えてはいけないことは変えてはいけない。ウシオグループの社員は本当に素直でまじめ。最近まじめって必ずしもポジティブに受け留められないじゃないですか。私はとても良い面だと思っていて、意外とプロパーの方はその良さに気付いていなかったりする。社内のメンバーでは見えない良さが見えてくることも、外から来たメリットだと思います。

着任してすぐに人事メンバーと全員と面談をしました。その中で「変えちゃいけないことって何だと思う?」と質問をしましたが、意外と出てこないんですよね。こういうまじめな気質って、後天的に備えることはとても難しいのだろうと思っています。会長や諸先輩方が築いてきた企業文化で、みんなもっと自信を持ったらいいなと思っています。

でも、それだけでは企業として勝てません。いまはとことん結果に対するにこだわりや、何があっても粘り強く達成するための情熱、思考力やビジネスリテラシーなど一定の武器を備える必要がありそうだと感じています。研修だけでなく、目標管理制度などの他人事諸施策と有機的に絡ませながら、全体の底力を高めていかないといけないなと感じています。

流郷さんはこれからもずっと人事・人材開発に携わっていかれそうですね

流郷:どうでしょうか・・・どんな形であれ、世の中や社会が成長することに貢献したいというのが私の想いです。まさにいま人材開発という仕事についているのは、私のライフミッションでもありますね。

インタビュアー:楠麻衣香(株式会社インヴィニオ ジェネサイトプロデューサー)
       畑俊彰(株式会社インヴィニオ プロデューサー)
インタビュー日:2019年7月16日(火)
インタビュー場所:ウシオ電機株式会社