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コラム

第一回 パフォーマンスモデルとパフォーマンスディベロップメント

2020.07.24

大企業の人財開発、組織開発の仕事に携わるようになって、はや20年以上が経過しました。 なぜ自分はこの仕事をやり続けているのか、何を実現したいのか、20年以上やってきて、何が見えてきたか、などを、コラムという形で発信しようと思います。

日本の大企業が抱える構造的な問題 日本では、最近ジョブ型への移行などが話題になっていますが、これまではいわゆるメンバーシップ型の雇用制度の下、人事ローテーションが組まれ、異動も厭わないのが当たり前、という慣習が続いてきたため、一つの職種でプロフェッショナルになる、というのが必ずしも一般的ではありませんでした。

その代表的な職種が「人事」で、外資系企業には人事一筋のプロがいるのに対して、日本の企業では、人事部門で仕事をすることが、「ローテーション」の一部だったりするため、必ずしも専門性が蓄積されず、いざ会社をグローバル化してみると、海外拠点で働く人事のプロと比較して本社人事部門のメンバーの知識・スキル不足が明らかになってしまった、という話も聞くようになりました。

私は、人事の専門家でもなく人事という職務全体についての知識があるわけではありませんが、20年以上人財開発・組織開発に携わることで、日本の大企業が抱える構造的な問題が見えてきたように感じています。しかも構造的な問題なので、部分的に対処してもおそらく解決することはできず、英語で言えばSYSTEMIC(全身的)な対応が求められていると感じています。

しかしながらその構造的な問題に気付いていないのか、あるいは、気付いてはいても対処策が思いつかないのか、整合性のないバラバラな施策が打たれていて、ますます動きが取れなくなっているように見えます。

企業が人財開発や組織開発にお金をかけるのは、最終的には企業の業績を上げることが目的であると思いますので、このコラムを通じて、自社が業績を継続的に上げていこうと思った時に、自社の問題を構造的に理解して、どのような人材開発や組織開発の施策を打つのが最も効果的か、答えを導き出すヒントになれば幸いです。

インヴィニオの価値 第一回目のテーマとしてパフォーマンス・ディベロップメントということを取り上げたいのですが、なぜここから始めるかは、インヴィニオという会社が現在目指していることと大きく関わっているため、まずそこから話を始めたいと思います。

私たちインヴィニオが目指しているのは、「日本企業の競争優位性の再構築、グローバル市場での存在感の回復」に貢献することです。(図1)

パフォーマンスモデルで問題解決の糸口を探る WEBに載っている各国のGDPの推移のグラフ を見ていただいてもお分かりのとおり、この30年間日本のGDPは横ばいです。
また、企業の時価総額ランキングをみるとトップ50社の中にランクインしているのはトヨタだけになってしまいました。30年前とは大違いです。ただし、単に昔に戻りたいと考えているのではなく、「日本人ってもっと底力があるんじゃないのか。何か見えない『重石』のようなものがあって、それを取り除くことでかつてのように輝ける可能性があるのではないか」と信じており、それが何かを特定して取り除くと同時に、お客様のパフォーマンスをあげるためのお手伝いをしたい、と考えている、ということです。

話を進めるまえに「パフォーマンス」とは何か?まずこの言葉を定義しておく必要があります。
Weblio辞書によれば、パフォーマンスとは・・・
実行。遂行。
演奏。演技。
身体を使って表現する行為。特に現代芸術で,演劇やダンスなどのジャンルを超えて行われる肉体を用いた表現形態。
街頭などで突発的に行う演劇表現。
コンピューターで,処理を実行する能力。性能。  です。

いろいろな意味がありますが、このコラムではの意味で使います。
組織が「処理を実行する能力」=結果を出すための組織の能力、という意味で使います。

目まぐるしく変わる環境の中で、処理しなければならないこと、たとえば、戦略を立てる、戦略を実行する、結果について検証し、次の戦略を立てる、というような「処理」を確実に実行する「組織能力」を引き上げることで、お客様の利益成長を実現することにコミットし、結果としてお客様のグローバル市場での存在感が飛躍的に改善することのお手伝いをしたいと考えています。 では、ある組織のパフォーマンスを引き上げる鍵は何か?これを考えるには、パフォーマンスが上がる構造=パフォーマンスモデルを理解する必要があります。

私は図2のような構造を想定しています。企業の中を「経営陣」「管理職」「現場」とざくっと3つに分解して描いたモデルですので、必ずしも会社の細かい部分まで忠実に表現しているわけではありませんが、このようなものを頭の中に置いておくだけでも、今、自社のパフォーマンスが上がらない理由がなんであるかが見えてきますし、どのような一連の施策を打たなければならないのか問題解決の糸口も見えてくるのではないかと思います。

図の解説をしましょう。

1989年にバブルが崩壊する前までは、比較的世の中の変化は緩やかで、一度作り上げた事業モデルが長い期間通用する時代でした。ところが2015年くらいからVUCAという言葉が出てきた通り、現在では外部環境の変化の先行きを見通すことが極めて難しい時代になっています。

PESTEL(政治、経済、社会、技術、環境、法規制)などが変化する中で、新たな事業機会や脅威が発生し、機会を捉えて成長しようと、経営陣はゴール設定を行い、目標を立て、戦略を立案します。それが図の一番上の部分です。

ここで第一の問題:役員レベルの問題が発生します。「みなさんの会社の経営陣は、正しく未来を予測し、適切な戦略を打ち出せているか?」ということです。例えば今なら「DXへの転換だ」と叫ぶのですが、それ以上のアイディアが無い役員が多くありませんか? この点については別の回で詳しく取り上げたいと考えていますが、ここで申し上げておきたいのは、役員クラスの人たちが未来予測や意思決定の技法を学んでおらず、昔の成功体験で判断しているだけの人が多いように感じているということです。これまではそれでもなんとかなったのかも知れませんが、VUCAの時代になってしまったのですから、重要な経営判断をする役員クラスの意思決定に関する知識やスキルのアップデートも必要だ、ということです。

経営陣は設定したゴールに到達し、目標をクリアするために、その実現を管理職以下に期待します。期待を受けて目標(の一部)を落とし込まれた管理職は、その実現にむけて、現場を動かさなければなりません。そのためにこれまで何をしてきたかといえば、大きな目標を 少し小さいサイズの「成果」に分解して、自分の配下にあるメンバーに分け与えて成果達成のためのPDCAサイクルを回すということです。

ここで第二の問題:管理職レベルの問題が発生します。管理職が組織に与えられた目標を的確に分解できているのか、そしてそれをメンバーに振るために適切に動機付けできているのか、ということです。これも別の機会で詳しく述べたいと思いますが、管理職くらいまでは、企業とくに上場企業が株主から成長を期待され、利益を上げていくのは「当然のこと」と受け取っているのに対して、若い世代は会社の成長よりも自分の成長やキャリア形成に関心があって、利益成長を必ずしも「当たり前」と考えていないということだけ指摘しておきたいと思います。

分解された成果を自分の仕事として取り組む「メンバー」ですが、行動を起こさない限り成果は生まれません。念じるだけでスプーンを曲げられる超能力者でもない限り、行動することによってのみ成果は創出されます。

ここで第三の問題:メンバーレベルの問題が発生します。メンバーが成果を上げるために起こさなければならない行動を起こせるのか、という問題と、行動を起こしやすい環境が整っているのかという問題です。整っていない場合は、管理職が、管理職レベルでは解決できなければ経営レベルで問題解決を図る必要があります。

個々人の行動を理解するには「行動心理学」が役立ちます。ハーバード大学のマクレランド教授が提唱した氷山モデルでは、行動に影響を及ぼすのは①知識・スキル・経験、②マインドセット、③動機・性格特性の3つですが、私はさらに「認知」、すなわち、自分や自分の外側をどのように見ているかも行動に影響を及ぼすと考えています。自分はダメな人間だと認知してしまうと、②のマインドセットに影響し、積極的な行動を取りづらいということが発生するからです。認知をマインドセットの一部と捉えるべきなのか、別物として捉えるべきなのか心理学の専門家ではないのでわかりませんが、明らかに行動に影響を及ぼします。

一方で個人の行動に影響を与えるのが「環境」です。ここについては米国のATDのヒューマン・パフォーマンス・インプルーブメントの研究部会が、個人のパフォーマンスに影響を及ぼす要素として、6つの要素を上げています。 I 知識・スキルを学べる環境、II 物的資源や道具、III 組織体制、IV 評価制度、報酬、インセンティブ、V 職場の環境(物理的に離れている、狭くて暗い・・など)、VI 情報です。
さらに私として加えたいのはVII 組織文化です。

組織文化はそれぞれの組織を他の組織とは異なるものにしている、価値観や仕事の進め方、あるいは成功の定義などを反映して築かれたもので、暗黙のうちにメンバーの思考と行動を方向付けしたり束縛したりします。例えば、非常に保守的で新しいことにチャレンジしない組織文化があると、「どうせうちの会社では何を提案しても受け入れられない」という認知を形成して、「新しいことを提案するのは止めよう」という行動へとつながります。

ここで示したパフォーマンスモデルは、私が想定しているモデルであって他にもいろいろなモデルはあり得ると思いますが、いったん何らかのモデルを置いてみると、自社のパフォーマンスが上がらない理由も見えてくると思います。

あなたの会社の人事施策、組織開発施策は有効か? インヴィニオは長い間、教育研修部門の方と付き合ってきました。研修を企画している人は I 知識・スキルを学べる環境を整えて、①を提供しようとしているわけですが、そもそもどのような行動を起こさせてどのような成果を出させたいのでしょうか?提供しようとしている研修内容は、行動を起こすことに有効に働いているでしょうか?知識・スキルを与えるだけで行動を起こすのに十分でしょうか?と自問自答してみると明快に答えられなかったりしませんか?

また、職場で対話を行って、コミュニケーションを活性化し、エンゲージメントを高めようという組織開発の試みも盛んに行われていますが、それはどこに働きかけているのでしょうか?コミュケーションが活発になると、経営陣が求めているような経営のゴール、目標の達成につながるのでしょうか?この図を使ってうまく説明できますか?

自社が今取り組んでいる施策がパフォーマンスモデルのどの部分に影響しようとしているものなのか、それは有効に働きそうか、働かないのであればどのような修正や追加的措置が必要か、新なに打つべき施策は何か、などが見えやすくなると思います。

図2のパフォーマンスモデルをいったん想定した上で、次回以降、私が感じている日本企業を束縛している諸問題について話を発展させたいと思います。



>>HRBPの設置や各種人事施策の強化を通じて戦略人事を実現されたいという方はこちらもご一読ください。

>>定期的にWebinarを開催しておりますので、是非こちらからご視聴ください。

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