Episode 01 : 私の仕事は「みんなの仕事を守ること」





キャス キッドソン ジャパン株式会社
営業本部長

増田 初菜子様

増田 初菜子さん 略歴
早稲田大学法学部、蘭ナイエンローデ経営大学院卒。外資系金融機関、外資系ラグジュアリーブランド等での勤務を経て、
2017年にキャス キッドソン ジャパンに入社後、Eコマース事業、デジタル戦略、全国の店舗運営の統括を担当

リーマンショック後、“越境経験”を経てのキャリアシフト

増田さんは現在、ロンドン発のライフスタイルブランド、キャス キッドソンの経営陣のひとりとして
活躍されており、主にEコマース関連をはじめとしたセールスの責任者を務められ、
非常に素晴らしい成果をあげていらっしゃると伺っています。
まずは、現在に至るまでのキャリアについてお伺いできますか。

私は、大学を卒業後、外資系の金融機関で主に投資のシステム開発をしていました。ところがリーマンショックの影響で会社自体が日本からなくなってしまいました。それで、この機会に少し環境を変えようと思いまして、オランダにMBA留学しました。オランダは冬が厳しいので、家の中にいる時間が多いため、インテリアに凝って、家の中を華やかに明るく飾る文化があるんです。オランダではもちろん勉強はしたんですけど、勉強の合間に、いろんな雑貨屋さんを見て回るようになりました。それまであまりインテリアには興味がなかったんですけど、オランダで素敵な雑貨やインテリアにたくさん出会って、なんて洗練されていてカラフルなんだろう、と。ダッチデザインと言われるものが近年流行っていますけど、それに非常に感化されました。それまで金融機関で働いていたわけですが、あらためて、自分は「お金で買えるもの」には興味があるけど、「お金」そのものにはあんまり興味はないなと感じまして、これからはライフスタイルブランドで働こうと決めました。

オランダから戻った後に入社したのが、ライフスタイルブランドのコーチ ジャパンでした。そのマーケティング部にて、Eコマースとデジタルマーケティングを担当しました。ファッションの世界って、非常に激しいし厳しいんですよね。生き馬の目を抜くっていう表現がありますけど、何百っていう品番の新作が毎月毎月入ってくるんです。ひたすら大量の新商品を出しては売り、、、の繰り返しでした。いわゆる一つの商品と長く付き合うような、そんな業界ではなかったんですね。商品は好きだったのですが、ニューヨーク市場に上場しているので、PL(損益)管理が非常に厳しくて、毎日大量の商品をひたすらさばいていく。そんな毎日を5年ほど過ごした後少し疲れてしまったので、一度この業界から離れてみることにしました。

次に移ったのが、ドイツのグローエという住宅設備の会社です。高級でデザイン性の高い蛇口とかシャワーヘッドとか、バスタブなどの水回り商材を扱っているインテリアの会社で、こだわりのある住宅や外資系高級ホテルなどに使われていることが多いので、ご存知の方も多いと思います。
グローエは60年ぐらい前に日本に上陸していますが、ドイツ製の商材なので、ものすごく長持ちすることで有名なんです。お客様の中には30年前の蛇口をいまだに使ってらしてその修理のリクエストも多くあったりする、いわゆる商品のライフサイクルがものすごく長い商材なんですね。コーチジャパンでファッションに疲れていたところに、こういった一つの商品に長く向き合えるような仕事に憧れを抱いたのと、「高級蛇口をEコマースで売りたい、だけど誰も今まで成功したことがないからやってほしい」という当時の社長からの熱心なお誘い文句が面白そうだなと思って転職することにしました。
私はグローエ ジャパンにEコマースとデジタルマーケティングの部門長として入社したのですが、実はそういう住宅設備の業界って、商習慣がものすごくコンサバで、昔ながらの商習慣がびっしりあって、大小さまざまな壁にぶつかり実はものすごく苦労しました。それでも1年後にはEコマースの売り上げは1.5倍にしましたので、市場を作って伸ばすことはできたのですが、当時グローエが住宅設備大手のリクシルに買収されたこともあり、環境が大きく変わり、グローエ ジャパンという会社は現在は別会社として運営されています。大きな組織での仕事もそれなりに面白かったのですが、やはり外資の中小規模組織での自身の裁量の大きさ、責任の大きさ、スピード感などの仕事の面白さが忘れられず、ちょうどその時期に、転職のお話をいただいたこと、また、花柄プリントの会社なので、夫に「はなちゃん、花柄ビジネス、天職じゃない?」と背中を押されたこともあり運命を感じた末、今のキャス キッドソン ジャパンに転職しました。それがちょうど3年前です。また目まぐるしいファッション業界に戻ったわけです。ここでもEコマース事業にかかわっていますが、最初の一年目から今までに売上は7倍まで伸びています。

必ず実績を上げていらっしゃるんですね。
増田さんはマーケティングでも特にデジタル・Eコマースをご専門とされていて、
そこは一貫されていますが、業界はいろいろな違うところに行かれていますよね。
その点では、ご苦労されたことなどはあったのでしょうか。

仰る通り、私はデジタル戦略や、Eコマースが専門なので、今お話ししたキャリアでも、業界は少しずつ違えどずっとそういう仕事をやってきました。そうは言ってもこの分野は比較的新しいので、そういった新しいものを持ってこようとすると必ず、既存の流通とか、新しいプロセスに反対する勢力がいるんですね。特に、グローエでは、先ほども簡単にお話しましたが、既存の流通がらみのところから当初は抵抗に遭いました。それまでは、メーカーは直販はしてはいけない、代理店を通なければならないという昔ながらの商習慣がありまして、既存の流通を担当している営業部からも反発されたりするようなこともありました。でも私がグローエに入社したのは、会社の成長戦略の一環として直販で売り上げを伸ばしてほしいというミッションがあったからですが、実際には私はそういうミッションを抱えて入社したのですが、会社側は流通に対しては直販しますとは言えなかったんです。私は既存の流通の怖さを知らなかったので、「高級蛇口をインターネットで売る最初の女になれるんだ!」と、そこにすごくオポチュニティを感じていたので、素晴らしい機会を得たと思っていたんですね(笑)。 実際にはとても古い体質の業界だったので、当初は社内の人も、そのような商習慣を変えるのは既存の流通や営業からの反発が怖いので協力には消極的でした。

新しいプロセスへの抵抗をひとつひとつ打開するには

そういう状況を打開したんですか?どうやっていったのでしょうか。

私はマネジメントチームの一人として入社しているので当時の会社の様々な状況を理解していました。また、どんどん新しい情報も入ってきます。正直言って、ここで売り上げを伸ばさないと本当にこのまま日本でビジネスを続けられないんじゃないかとか、あまり楽観的にはなれない状況を聞いていたんです。でも私の立場だから入ってくる情報なので、下の人にそのまま伝えるわけにはいかない。しかしメンバーを見ていると、会社は永遠にあって、自分たちの仕事は永遠になくならないと思っちゃっているんですね。だからそういう人たちに今ここで売り上げを上げることがいかに重要であるかを理解してもらうことから始めました。みなさんは永遠に会社があって、自分たちの既得権益はなくならないと思っている。だけど、当時はそう楽観的なことが言える状況じゃないし、今はいろいろな会社が潰れていっているのを知ってますよねと、うちの会社も例外ではないですよ、ここで売り上げが伸びなかったら、私に協力しなかったら、本当に会社が無くなりますよ、「自分たちを守れるのは売り上げと利益だけですよ。」と。今現在世の中で何が起こっているのか、という話をし続けました。そうやっているうちに、最初は危機感からか、また私のエネルギーに押されてか、徐々に協力してくれる人たちが社内に増えていきました。私が売り上げを伸ばしたと言っても、全て一人でやったわけではないし、たった一人でやれと言われてもできるものではないので、実績を出しながら社内外に少しずつ味方を増やしていくしかないんですよね。Eコマースで売るということに理解を示してくれる営業部長や親会社の役員もいたので、そのような影響力のある方々に流通側からの反発を抑えてもらったり、本社からリソースを引き出してもらったりしながら、直販をいきなりやるのではなくて、まずはAmazonのようなインターネットモールを通して売るという方法をとったりしました。その場合Amazon という会社との取引になるので、建前としては直販にはなりません。さらに、Amazonで売るものは、既存流通で扱っているものと被らないような商品を選んだり、おまけをつけて専用セット商品として開発したりと、既存と同じものは卸していないですよ、というように説得しながら、いろいろなやり方で工夫と調整を重ねて、一つ一つ状況を打開して実績をあげていきました。そして実績があがれば味方が増えて、いい成長サイクルに乗ることができます。

現在の会社(キャス キッドソン)でも、私が入社した当時は、既存の流通=実店舗であり、店舗と関連部門の従業員たちはEコマースに自分たちの売り上げを奪われてしまうのではないかと恐れていて実際にEコマースを伸ばそうとする動きに反発もありました。約3年で売り上げが約7倍になったと言いましたが、私が着任した当時のEコマース部門の売り上げは他チャネルに比べてまだそれほど大きくなかったので、伸びしろが大きく早く成果を出しやすいと思ったんですね。それに、Eコマースは利益率が高い。家賃は要らないし、最小限の人員配置で効率的に売ることができる。まずは誰の目にも明らかな成果を短期間で出すことに全エネルギーを集中し、私の着任後の最初の一年でEコマースの売り上げを倍以上にしました。そうやって誰の目にも明らかな成果を短期間に出せば、日本の社長や本社の経営陣、ひいては投資家からも高く評価されて、チームの拡大やマーケティング投資の拡大、といういい成長サイクルができて味方が増えていき、「Eコマースがこれからの会社の成長エンジンとなる」、と全社員にEコマースの会社業績への貢献が認められてきたと感じています。実績が出れば、人はついてきて味方が増えていきます。ただ、みんなが日々の業務で忙しくて忘れてしまわないように、いかにウェブサイトが店舗の売り上げや送客に貢献しているか、いかにお互いのビジネスに相乗効果があるかという事実を実際のデータを使って、日々、店舗や関連部署の社員に根気強く説明し続けて、お互いWIN-WINになる存在なんだということを伝え続ける努力をしています。それに、この業界(ファッション・ライフスタイル業界)は、全体としては住宅設備業界以上に状況は芳しくありません。近年の大手のグローバルファッションチェーンの日本撤退や大量店舗閉鎖などのニュースが記憶に新しいですが、まさに私たちはその生き馬の目を抜く激しいファッション業界にいて、明日、自分の仕事があるかどうかもわからない、「自分たちを守れるのは売り上げと利益だけ。」そういった仕事をする上でのシンプルな原則と危機感もチームに伝え、楽しく仕事をする中にも、適切な刺激と緊張感を保つようにしています。

この会社に来て私が自分のチームを再編成するときに全員に言ったことは、もしこの会社が潰れても、どの会社にでも転職できるようなスキルを必ず3年で身に着けさせます、なので私についてきてください、どこの外資系ブランドでも転職できるようにするからって。みんなそれを信じて、私についてきてくれているんですよね。メンバーにも恵まれて、無茶ぶりも自分の成長のためだと思って頑張ってストレッチしてくれているので、今の結果があると思っています。でも、数字のコミットがあるから、結構きついことを言うときもあります。だから中には本当は私のことを苦手に思っている人もいると思う。絶対嫌われますもん、最初は。でも、正直いって、みんなに好かれたい、嫌われたくないというタイプの人は(特に営業系の)経営陣にはあまり向いていないと思います。この仕事は、会社を守るためにリスクを恐れず現状に変化をもたらしていく仕事ですから、変化には必ず痛みが伴います。みんなに好かれようと思っていたら全く仕事になりませんので。

人のために闘うことで人間は強くなれる

その危機感や一つ一つ困難を打開するパワー…それはどこから出てくるのでしょうか。

まず、私自身が、会社が無くなるということを、実際に何回か経験しています。リーマンショックだったり、日本を撤退することになったり、他の会社に買収されたり、実際にそういうことが誰にでも起こりえるというのを実体験しているというのは大きいと思います。今の環境が明日も続くかわからない、会社が明日あるかわからない、その状況で、私が経営陣の仕事として一番大事だと思っているのは、みんなの仕事を守ること、それ以上に大事なことはないと思っています。明日潰れるかもしれないって思いながら、会社に勤めているのは誰だって嫌でしょう。一生懸命頑張ってくれている従業員に安定して働ける場所を提供することが一番の役割だと思っているので、数字には絶対にコミットします。みんなの仕事を守るために、数字は本当に重要なんです。「自分たちを守れるのは結局は売り上げと利益。」 今まで何度もそのことを痛感してきました。そのためには、やるしかない、闘うしかないっていう覚悟が私にとって大きな打開のエネルギーになっています。人間って、人のために闘うほうが強くなれるって思いませんか?ただ自分のため、ってやっているだけだと、結果としてたいしたことはできない気がします。

チャンスにもっと素直にチャレンジしたらいい

環境やポジションが人を作る、ということかもしれないですね。
増田さんのご経験を踏まえて、これからチャレンジをしようとしている
若手のビジネスパーソンに向けてメッセージやアドバイスをいただけますか?

主に女性に向けての話になっちゃいますが、例えば、せっかく昇進を打診されても二の足を踏むとか新しいポジションを打診されても考えすぎて断っちゃうといったケースが女性には多いと聞きますが、もったいないなと思いますね。例えば自分には小さな子供がいるとか、その他いろんな制約事項を理由にしてチャレンジの機会を見送ってしまうのはもったいないなあと思いますね。キャリア上のチャンスって人生にはそうそう何度もやってこないものだし、もし機会が与えられたらとりあえず受けてやってみる。やってみたら結局何とかなる、もしくは自分で何とかしているんですよ。ごちゃごちゃ考えずに、もうちょっと素直にチャレンジしてみたいって言ったらどうかなって思うんです。よく「私は管理職になりたくないんです。」って言っている女性がいるじゃないですか。でも、そもそもそんなことを言っている人のところにそんな打診は絶対に来ない。はじめからオープンに尻込みしている人に管理職なんてオファーしないでしょう? そういうチャンスは手を挙げている人のところに行ってしまうんです。女性はもっといろんなチャンスにオープンに手を挙げたほうが良いと思います。女性は自分を守るために、ついつい予防線を張って自分を傷付けないようにしている人が多いんじゃないかな。本当はやりたいんだけど、手を挙げるのは恥ずかしい、またできなかったらどうしようって。そんなことを言っていたら、ただでさえ限られているチャンスが余計になくなってしまうので、何か打診されたらありがたく受けてみたらいいのにって思います。結局はポジションが人をつくりますからね。

増田さんのような方が活躍されることでチャレンジしていく女性が増えるきっかけに
なっているかもしれないですね。ありがとうございました。
(聞き手:株式会社インヴィニオ 編集部)

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